お題:『タイム』『スリップ』
めでたく開催の運びとなりました。
ショートストーリーを募集します。
締め切りはだいたい1週間後を予定してますが、延長もOKです。
難しいこと分からないので、講評はなしで感想をつけたいと思ってます。
はてなキーワードさん↓
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%CE%CF%B8%A1%BA%F7%A4%AB%A4%AD%A4%C4%A4%D0%A4%BF%C7%D5
『彼女の悪戯』
「いよいよ明日ね」
公園のブランコをこぎながら言った美織の頬が赤いのは、明日、俺と式を挙げるからだと自負して良いだろう。振り子の方式でどんどん振り幅を増すブランコは、このまま美織が何かに吸い込まれてしまいそうな不安を俺に与えた。そうはさせるかと、美織の乗るブランコの後ろに回り、彼女をブランコごと受け止めた。
「びっくりした、急ブレーキ……」
「新郎だけの結婚式はやめてくれ。ったく、ガキじゃあるまいし」
「覚えられないから、式の日と入籍する日を一緒にしたいって言った誰かさんよりは、大人だと思うけど?」
「そうかな」
美織の赤い頬に触れると、いつも触れるぬくもりの熱が少し上がっていた。美織の両親は数年前に他界している。明日式を挙げ、届けを出せば、公的にも法的にも彼女のあらゆる隣の席を手に入れる資格があるのは俺だけになるのだ。
「ねえ、紡。クサいこと、言っていいかな」
「なんだよ」
「紡は、私とどんな人生を紡ぎたいですか」
近くにある小学校が、五時間目の終了を告げる鐘を鳴らした。子供たちが一気に解放される。校庭に飛び出して遊ぶ子供、家に帰る子供、塾に行く子供。俺たちがいる公園にも、甲高い声が近づいてくる。
「俺は、お前がいつまでも隣にいる人生を紡ぎたいよ」
「……クサ~い」
「なんだ、その間は」
子供たちがヒューヒュー言っているのが聞こえる。いつもなら煩わしいが、今日ばかりは祝福の音ということにしても、罰は当たらないだろう。
「お姉さんたち、結婚するの?」
「そうよ。あ、走ってきたら危ないよ」
子供のうちの一人が、脇目も振らず横断歩道を直進したその時。
ブォン
「危ない!」
普段は皆無と言っていいほど交通量は少ないのに、こんな時に限って、真横から猛スピードでバイクが突っ込んできた。
「美織、危ない!」
そして、辺りは光に包まれる――
気づいたら、バーにいた。俺はカクテルグラスを握り締め、情けなく涎を垂らして突っ伏していた。脳が、理解できません、と信号を送っているのが何となくわかる。何が起こったか分からない。鈍い脳味噌をフル回転させて記憶をたどった。
そうだ。美織は突っ込んできたバイクから子供をかばおうとして歩道に飛び出し、それで――
「美織!」
「何?大きな声」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。目を凝らさずとも、今いる場所は、先程いた公園ではない。
パニックになって、隣にいた女の肩を掴み、大声で尋ねた。
「美織……美織を知りませんか!名字は……そう、安西。安西美織です」
「……ひっぱたいていいかしら?」
「え?」
そこには、出会った頃の美織がいた。
「今、真剣な話をしている筈よ、私たち。泥酔して寝た挙句、彼女の前で彼女の名前を呼んで、彼女を尋ねるなんて」
「ご、めん……」
酔い醒ましにいいからと夜の銀座を歩く。確かに俺の婚約者・安西美織だ。外見は勿論、洋服の趣味もしぐさもそっくりだ。
夢なのだろうか。
「なあ、俺たち公園にいなかったか?」
「もう、何回言わせるの?夢を見たのよ。私たちはまだ婚約していないし、公園にも行っていない」
「そうだよな、生きてるもんな。美織」
「話があるって、呼び出したのは確かだけれど」
「話?」
「もう、またはぐらかす。分かっているでしょう」
分かるはずがない。この、安西美織と名乗る女とは初対面だ。同姓同名にしては似すぎている。そして、公園のリアル感を考えれると、あれが悪い夢だとは到底思えないのだ。
もしかして、俺は――
「俺、タイムスリップでもしたのかな」
「ちゃんと聞いて!」
「あ、御免。式、そうだ、明日は式だもんな。入籍の書類は書いたし、それに……」
「別れようって、言ってんの」
「別れる?」
美織の言葉は鋭く心に刺さった。閉じ込めたいほど愛している安西美織。しかし俺の中には、この安西美織と“付き合って”いるが、婚約はして“いない”。そして、“別れよう”と言った。
「なんで……」
「好きな男がいるの」
「俺を、捨てるのか……?」
「あんた、重いのよ。携帯見たり、毎日、愛してる、とか、愛の安売りばかりして。そういう男、嫌われるよ」
嫌だ。俺には、美織しかいない。
「バイバイ、紡」
やめてくれ、戻ってきて。美織。
「美織!!」
叫んだその時、また、閃光に呑まれた。
ぼやけた意識で、先程の安西美織の言葉を反芻する。
『あんた、重いのよ。携帯見たり、毎日、愛してる、とか、愛の安売りばかりして。そういう男、嫌われるよ』
俺の知っている美織は、そんなことは言わない。でも、脳裏に焼き付いた外見、声音は美織そのもので、付き合っていることも確かだった。あの時――道路に飛び出た子供を救おうと駆けだした美織は、どこへ行ったのか。
本やゲームでありがちな、知らない世界にタイムスリップしてしまったのだろうか。
『紡』
声が聞こえた。美織?
『そう。私は安西美織』
お前は今、どこにいる?
『紡の考えている通りよ。私は子供をかばって、人の世を離れた』
やっぱり、俺は夢を見ていたのか?
『覚えていないでしょう、あなた、私を追おうとしたの。未遂ですんだけれど』
……無理ないさ、だって俺は、美織しかいらない
『そんなこと言わないで。あなたの引き止める力が強すぎて、私の魂は転生できないまま。だから、出会った頃の安西美織に会わせた』
お前のせいだったのか
『私はあなたが思うような善良な人間じゃない。彼女が言ったの、私の本音よ』
……美織
『私以外にも、あなたに会った女性は幾らでもいると思うわ。私で最後なんかじゃない』
そんな理屈、通用するか
『するのよ。生きているんだもの。次に起きる、燃えるような恋も、その火を鎮火する別れも、両方あるから人間をやってられる、それはとても素晴らしいことだって思うよ』
そんなもんかな
『そんなもんよ。生きて、紡。私と言う盾がないあなたの臆病な手でも、歩いていれば、きっと腕さえ掴めるよ』
目が覚めると、知らない白い天井が目に入った。ここは、きっと俺の世界だ。枕元に、ナースコールが置いてある。これは、美織のいないこの世界で生きるスタートボタンだ。
俺は生きるよ。お前が言うように、この独りっきりの寂しい世界で、もう一度色恋でもしてみせるさ。いつになるかは、分からないけれど。
ナースコールを押す。小さな声で、もう一回、ありがとうと呟く。私こそ、と、囁く声が聞こえた気がした。
爽やかな香りがした。
「私のお気に入りの場所よ。あなたは気に入ってくれるかしら」
少女が駈けだすと、その香りは風に色を付けるように、それでいてむせ返らない優しさで吹き抜けた。蒼穹は底を知らず、陽光が眩しく世界を照らす。幼い頃の思い出の景色のように、やけに鮮やかで眩しい色だ。
「気に入ったよ、素敵な場所だ」
「良かったわ。ここはあなたに好かれる場所になれたのね」
少女の白いワンピースは更に目を眩ませる。思考にフラッシュがたかれたようにちかちかと散漫になる。心に身を任せて僕も駈け出した。
な。あー、うん…ん? ああ、朝か。脳に吐き気を感じる。感覚が異常。寝起き。辛い…な? なってなんだ? 腰が痛い。布団が心地好い、まだ寝ていたい、何か夢を見た気がする。
「うぅ…何時」
混沌とした思考をかなぐり捨てて、時計を見れば9時17分。もそもそとベッドから体を引きずり落とし、カーテンを開けば息苦しい日差しが身を焼いた。あー、俺生きてんのか、辛い、死にたい。寝起きが悪い俺は死ね。
陸なことを考えないので、思考はシャットアウトしました。階段を降りましょう。リビングの扉を開けましょう。しっかり朝食をとりまs…シリアルで良いや、めんどくさい。
テレビを点けてHDDの起動を待つ。紅茶を入れてシリアルをポリポリと貪り始める。俺の脳みそなうろーでぃんぐ。
「〽Her name has slipped my memory...」
知らない番組から流れた知ってる曲の歌詞をそっと歌った。少し鼻の奥にツンときた。何がかは分からない。まだ起動しきってない俺の感情制御装置。
「変な夢を見たな」
少しずつ思い出してきた夢には鮮明に記憶しちゃいないが、知人が出てきた気がする。しかし思い出せないのは仕方がないだろう、自分はしばらく人との関係を断ち切っている。過去の思い出に掠れて消える友人。引きこもりの俺をどんな目で見るのかな。
「いや、受験受かったら俺も大学生だし? ニートじゃないもん予備校生だもん?」
すぐ暗い方向に転がり落ちる思考を止めようと、独り言も増えていく。あーやだやだ、そんなことより録画したアニメ見るんだよ俺は。ほらテレビ早くしろ。
「逃げてるんじゃないですー、一本見たら勉強するんですー。遊んでばかりじゃないですー…ニートじゃ、ない…」
くそっ早くしろよHDD、俺を自己嫌悪の沼に置き去りにするなんて許さねえからな! 貴様も道連れだ!
「録れてる録れてる…よし、トリガー、オン!」
画面の奥の主人公にすら笑われてる気がするなんて、そんなの気のせいだ。
「この青さがあなたを洗っていくのよ」
青空を見上げていると、少女が言った。確かに心洗われる晴天だ。清々しい。
「緑はあなたの傷を癒すの。もっと深く息を吸って」
肺に冷たく心地よい空気が流れ込んでくる。深呼吸を繰り返せば、眼が覚める思いだ。
「知ってる? この植物の名前」
果実の瑞々しい香り。もう喉につかえてた汚い感情なんて、霧散したようだった。
「行動力、勇気、活動的、大きな望み…この植物の花言葉よ。レモンタイム。それが名前」
どこまでだって行けるわ、と微笑む少女に、生の輝きを見た。
「イメージトレーニングも、だいぶ慣れたみたいだね」
「まあ何とか。楽になりました」
「良い顔してるよ。大丈夫、君はもう大丈夫だよ」
「そうですかね?」
「ああ。受験、行けそうかい?」
「ええ、頑張ってみます」
「自信持って、ほら」
「…ええ、合格してやります」
「そう、その意気だ。それじゃ、次に会うのはそのときかな」
「良い報告ができるように、頑張りますよ」
「ああ、応援してるよ」
虚構でしかない少女に救われる俺は滑稽か。
二番乗り?でごじます。
開催おめでとうありがとうございます。
お題をあまり上手く使えてなかったです反省。
感想お願い致しまする。
読んで、何がどうなったのかよくわかりませんでしたけど(特に最終段落)、なんとなく雰囲気は良かったし、相変わらず出だしで惹きつける文章だな~と思いました。
それと、ニートの心情暴露部分と他の部分とのギャップが面白かったです。
お待たせした上に簡単な感想ですみません。
『08564』
!!!
!?!?!?
目を覚ました。
ここは、どこだ。
寝ていたわけでもないけど、起きていたわけでもない感じ。意識は、レンジファインダーのように像を結んだ。
深夜のようだったけど、違いは歴然だ。電話ボックス。社会党のポスター。捨てカン。はしご型の横断歩道。
事態を飲み込んだ俺は徐々に落ち着きを取り戻した。
ポケットを探った。助かった。まだある。
完璧だ。俺は無事、タイムスリップした。
それだけ確認すると、俺は目的の場所へと向かった。もしかしたら、この世界には長くいられないかもしれない。時間はない。
乗り捨てられた自転車には、今俺が通う中学と同じステッカーが貼ってあった。動かしてみると鍵がかかっていなくて、俺は自然な気持ちでそれにまたがった。ライトを点けて漕ぎ出すとうるさくて、やっぱりライトは消す。人目を忍ぶのにわざわざ目立つことをするなんて、と一人苦笑いする。
街並みは変わっても、道は大して変わらない。父の実家のアパートに行くのは、簡単だった。
ずっと父が嫌いだった。
父は仕事にも行かず、毎日酒を飲んで過ごした。月末になると母の稼ぎを持ち出してパチンコへ行き、その日のうちに全て使い果たした。酒がないと言っては母を殴り、酒に酔っては母を殴った。
暴力を受けていたのは母だけではない。俺も殴られた。何か物を取り落としたり、気に入らないことを言ったり、あるいは逆に何も言わなかったりすると、それだけで父は頬を張った。瓶で打たれたこともあった。視界が赤で染まった。
父のせいで、襖は枠だけが残った。兄弟は俺だけが残った。俺には少なくともひとり妹がいたような記憶がある。けれどいつの間にか俺は一人っ子だった。
いま俺は、08564日前、父が父になる前の時代に来た。
そして、父を殺そうとしている。
タイムパラドックス。
もちろん知っている。タイムスリップして過去に遡っても、親のことは殺せないはずなのだ。親がいなければ自分は存在しなくなるはずだから。でも、それならそれでよかった。どっちにしたって、俺は、いつか、
殺される。
アパートの少し手前で自転車を止めて、歩いてアパートに入る。「佐藤」。自分と同じ名字の部屋の扉を開けた。鍵がかかっていない。父の両親、つまり俺の祖父母は、夜なのに不在のようだ。奥から一人分のいびきが聞こえる。
俺は、持ってきた物をポケットからを取り出した。学校の3Dプリンタで作った銃。この時代には存在しなかったものが、ここにちゃんと存在している。手触りを確かめる。FPSのように銃を構えたまま、奥の寝室へ向かう。
父は仰向けで寝ていた。顔を覗き込んだ。
その人物は、自分とそっくりだった。まるで鏡を合わせたように。
思えばそれは当然だった。まだ誰の父でもないこの人物は、今の自分と同い年の少年なのだから。
そして俺は、この人の息子なのだから。
揺らいだ気持ちを整え直して、俺は、銃を構える。
その刹那、いびきが止まる。父が目を見開く。父がなぜか、俺の名前を口にする。
「164! 7、7000 552…」
父の瞳に俺が映る。
「10 1000。08564!」
俺は構わず引き金を引く。
弾丸が吸い込まれるのがスローモーションで見える。
先端が、瞳の鏡面に到達する。
その刹那、瞳に吸い込まれたはずの塊が、鏡で反射して、“こちら”の世界に飛び出してきた。
俺は射抜かれた。自分が放った弾丸によって。
「俺のほうもかよぉぉぉぉぉ!」
!!!
!?!?!?
で、目を覚ましたよね。
——この人どうしてこの時点でこのこと知ってるんだろう。
ストーリーは途中まではわかりました。
最後のリンクで前々から仕込んでたのは凄いと思いましたが、どうつながるのかが良くわからなかったです。
なんとなく雰囲気で読ませる作品なんだろうなと思ったり思わなかったりしました。数字にいろいろな意味が込められていそうで怖いですけど。
わたし開催の時に限り……ですが、文字数はあまり気にしてません。
2014/11/18 12:56:174万文字くらいまでなら受け付けます(笑
というのも、修行中は書きたいように書く、しばられずに書くというのも重要だからだと思うのです。普段コブマリさんがどういう執筆活動をしているかわかりませんが、わたしはそもそもかきつばたしかやってなくって、文字数気にせずに書きたいことを書いて、だいたい2000文字前後で力尽きてオチなく終わるみたいなことをやってましたが、とても修行になりました。
コブマリさんくらいだと、もうちょっとステージがあがっているので、プロットが浮かんだ時にだいたいなん文字くらいになるかとかが想像できているかもしれません。
それを削ったり水増ししたりするのも修行の一環だとは思うのですが、かきつばたで片意地はっても仕方ない気もするんです。3000~4000ぐらいだと全然許容範囲だと思ったり。
要は文字数に見合うだけの魅力が醸し出せるか? なんだと思います。
1万文字以内だと、魅力ある文章、展開だと読む方からしたら一瞬だと思います。
相反する提案になっちゃいますが、文字数気にせず書きたいように書く と プロットの段階から文字数に合わせた文量をしっかり把握していく どちらも使い分けてうまいようにやっていくのが吉とでるかと。
で、ショートショートなので、シンプルイズベストは求められる事案なので、書きたい話によっては、ぜい肉をそぎ落としてストーリーを詰め込んだり、逆にストーリーを削り落として文章力と雰囲気で勝負したりと、両方面からのアプローチが必要なんじゃないかなあって思ったりします。
どこ目線のコメントだ?
コメントありがとうございます。
2014/11/27 08:46:38贅肉をなくして骨と皮の作品なんて、勿体ないな~とは思います。
(それもそれで、面白いかもしれないんですが)
言われるまで気づかないのは悪い癖というか、
それでも指摘してくださるぐらんこ。さんのような方がいてくださって、
私は幸せ者です。
お互い頑張りましょう。無理せず。
短いお返しで御免なさい。
>どこ目線のコメントだ?
それはもう、ぐらんこ。様でしょう!天晴!