ある学校(幼小中高大のいずれでもOK)では、よんどころのない事情のため、入学式全体をたったの1分間で済ませなければならなくなりました。
そこでその学校では、以下をすべて、無理やり1分間につめこんだのです!!
1. 開会のことば
2. 学長の挨拶
3. 来賓紹介
4. 来賓の祝辞
5. 新入生代表の挨拶
6. 祝電の披露
7. 閉会のことば
・・・という設定で、その1分間の卒業式を描写した小説を書いてください。
奇想天外な策や、涙ぐましい時間節約や、時間短縮のための笑える仕掛けなどが高得点です。
余力があれば、「よんどころのない事情」まで書いていただければボーナス点です。
7つをやっても、まだ時間が余るという頼もしい方は、さらに好きなものを増やしてかまいません。
それでは、よろしくお願いいたします。
◆入学式前日 〜タイムズ先生〜
俺がその電話を受けたのは偶然だ。
「はい、テンプス高等学校、タイムズです」
「もしもし、明日から入学する、ええと新入生の久慈です」
俺は記憶をたぐった。ええと。久慈は東洋の小国から単身長期留学している少年だ。彼が寮に入るときに世話してやったのだった。
「久慈か。どうした? 入学式のことか?」
「そうです、あの、実家の母が、卒業式は明日なんですけど、明後日に手術になったようなんです。成功しないはずはないんですけど、ただ、100%とはいえないような難しい手術で、それで、僕、すみません、不安もありますし…」
要領を得ない。
「入学式を休んで、見舞いに行きたい、ってところか?」
「そうなんです」
彼が入寮したときのことを俺は思い出した。彼は、母からです、と言って小さな包みを持ってきた。中にはなにか見たことのない果物と短い手紙が入っていた。…久慈のお母さまは体調が思わしくなかったのか。
分かった気をつけて、とだけ俺は言えばよかった。なのについ口が滑ってしまったのだ。
「明日の入学式には出席してもらう。君には入学式を終えてから、学校を発ってもらいたい」
「でも、母は今、僕の祖国の…」
「大丈夫だ。間に合うから入学式の準備をして、明日は時刻通り、8時30分に登校してほしい。…念のため、腕時計を忘れないように」
俺はそう言って電話を切った。どれだけ無謀なことか、分かっていたのに請け負ってしまった。
というのも、おそらく彼は朝9時1分発の列車に乗らないと間に合わないはずなのだ。幸い学校は駅前も駅前にあるから、9時1分に校門を出てもその電車に乗れる。が。
入学式は9時からなのだ。入学式のための祝電は、毎朝その列車に乗った配達員が届けるはずだ。列車は9時に駅に着き、1分間停車して配達員が配達を終え、きっかり9時1分に駅を発車する。
つまり、9時に入学式を始め、9時1分に終える。それしか手はない。
「でも、どうするんだ。校長なんかともかく、来賓のあいさつなんかは放っておくと何十分にもなるぞ」
「その通りだ。時間を区切るしかないだろう。10秒とか、そういう単位になるが仕方ない」
同僚はみな知恵を絞ってくれたが、名案などそう簡単には浮かばない。
「そもそも1分じゃ、入場すらままならない。その1分ボーイが最後に入場して、最初に退場するぐらいじゃないと」
「それにどうやって時間を区切っていったらいいんだ。秒針のある大きな時計などここにはないぞ」
「音楽を奏でては」
「音に対して音で区切ってはかき消されてしまう。目に見える方法でないと」
「だが時計はない。秒が分かるのは…腕時計や懐中時計ぐらいだ」
「ホールの床一面に広がるぐらいの、大きな時計があればなあ」
大きな時計。俺にアイデアが舞い降りた。
「それだ。ホールの床に大きな円を描くんだ。それを時計にすればいい」
「円を描くだけでは時計にならないだろう」
いや、秒針は人間で代用できる。この方法なら、彼は9時1分の電車に乗れる。
「円を描いて、15度ずつ印をつけてくれ。その円に沿って校長の席、来賓の席、祝電を読み上げる司会の席なんかを設けるんだ。新入生の席は円の内側にまとめておけばいい。配置を組み替えてくれ。ステージは正面じゃないぞ」
同僚はみな疑問を抱えたままだ。それでも夜が更けるまで会場設営に付き合ってくれた。
◆入学式当日 〜久慈くん〜
よく分かんないけれど、入学式を終えてから、今晩の母の面会時間までに、故郷に戻れるとは思えないのだ。だってこの街に来るときにだってほとんど1日かかったもの。でも先生は確かに、「間に合うから入学式の準備をして、明日は時刻通りに学校に来るように」っておっしゃった。間に受けてしまったけれど、本当に大丈夫なんだろうか。
僕は慣れない制服を来て、慣れない教室へ入り、慣れない座席で考えていた。教室に座っているクラスメイトは、だれもが自分よりも年上に見えたし、勉強ができるように見えたし、それでいて互いに親しげにおしゃべりをしたりもしていた。みんなはもともと知り合いなのだろうか。大陸中から生徒は集まっていると聞いたけど。
8時30分きっかりに、教室にタイムズ先生がやってきた。入寮のときの先生だ。教室はたちまち静かになった。先生は言った。
「今日の入学式だが、1分間で行うことになった。9時に開始、9時1分に終了だ。てきぱきと行動するように。それから新入生代表のあいさつは、このクラスの久慈くんが行うことになった。久慈くんはあとで来てくれ」
久慈って…僕ですか。ですよね。こんな名前の人、周りにはいないみたいだし。
僕は先生に呼び出されて、校門のところへやってきた。そこに立って、と言われるがまま、入学式の看板の前で僕は写真を撮られた。その場で写真が出てくるカメラなんて初めて見た。
先生は言った。
「なにぽかんとしているんだ。その写真はしまっておけ。さて、時間もないし説明しよう。久慈くん、ホールには君は最後に入場してくれ。君が入場したら式は始まる。9時きっかりだ。ホールの床には円状にラインが引いてあるから、君はその上をゆっくり歩けばいい。ラインには等間隔に目盛りが付いている。腕時計を持ってきただろう? ひと目盛り、5秒で歩く。目盛りはちょうど12あるから、ラインを1周するとぴったり1分だ。いいだろう?」
いいだろう、って先生…。なぜホールに円? なぜ1分? なぜ写真? 僕は気になっていたことを聞いた。
「先生、どうして1分なんですか。僕の母の見舞いと関係があるのですか。それから、」
「大アリだ。君はその駅に列車が来る時間を知っているか」
先生は僕の声をさえぎって尋ねた。
「時間、知りません」
「9時1分だ。その特急に乗れば、今日の夕方には君のお母さんのいる街に着くだろう。お母さんは君の入学を喜んでらしたのではないのか」
その通りだ。受験勉強の間も、一人暮らしが決まったときも、僕のことあれこれ世話を焼いてくれた。合格の通知が届いたときも、僕以上に喜んでくれたのは母のほうだ。
そのとき、遠くから列車がやってくる音が聞こえてきた。
「9時になる。入場してくれ」
先生は告げた。ホールの上の鐘が鳴った。僕の目の前で、ホールの扉が開かれた。
「久慈はじめくんの入場です」
司会と思しき人物が高らかに言った。僕が一歩を踏み出したのと同時に、校長先生がしゃべりだした。2目盛り先には来賓が並んでいるのが見えた。そのさらに2目盛り先にもだれかがいた。そうか、なるほど。僕はこの時になってようやく、ホールの中の円の意味に気がついたのだった。
ある水産高校の入学式。港のそばで、9:00から予定。8:50に南米の地震による津波警報が発令された。そこで、9:00から。。。
【校長】
校長のxxxxyyyyです。せっかくの入学式ですが、津波警報のため1分で式を切り上げ、皆様には避難していただきます。
来賓の、OBであるわが町の漁業組合長のrrrrssssさん、お願いします。
【来賓】
みなさん、おめでとう。命が大事です。
【校長】
はい、では新入生代表のgggghhhhさん。
【新入生代表】
さっそく、訓練にかわる実地の体験ができて緊張しています。
【校長】
では、祝電は後に当校のホームページに掲載いたします。
以上でおわります。みなさま、粛々と避難してください。
sibazyun様、ありがとうございます。これは確かによんどころない事情ですね。ざばーっ!!
宇宙中継(Japanse) ~ はてな学園入学式次第 ~
この日本語版は、一分間=60秒に300字を読むとして、一秒5字
をあてている。開会・閉会のことばを各々5秒=各25字(約一行)、
その他を平均10秒=各50字(約二行)にまとめた。
00:00 開会のことば「ただいまより、はてな学園入学式を始めます」
00:05 学長の挨拶「諸君、当学園ご入学おめでとう。このたびは、よん
どころのない事情(※)で、電子入学式を迎えることになりました」
00:15 来賓紹介「来賓の芳名ならびにプロフィールは、送信済スライド、
およびプリントをケータイ・サイトからごらんください」
00:25 来賓の祝辞「来賓の祝辞は、当学園ホームページ上の youtube
にリンクされています。一部ライブ中継もあります」
00:35 新入生の挨拶「春の穏やかな日差しの中、桜の花びらが美しく風
に舞う今日の佳き日に、入学できたことを嬉しく思っています(録画)」
http://www.ut-life.net/people/k.suzuya/
── 鈴谷 賢史《入学生総代による宣誓 20080411 東京大学入学式》
00:45 祝電の披露「お手元のケータイに向けて一斉送信されています。
早送・通常・遅送モードを選択して、閉会後お読みください」
00:55 閉会のことば「以上、本年度はてな学園入学式を終了いたします」
http://www.jp-guide.net/businessmanner/b-manner/speech-b-nyugaku...
入学式の挨拶(文例・例文)
※
よんどころのない事情とは、世界主要都市を襲った同時多発災害で、
すべての交通機関が麻痺し、通信手段が壊滅した事態を指す。わずかに
蓄電されていたケータイを通じて、この入学式が中継・配信された。
── アナウンサーが原稿を読むスピードは、三〇年前は一分間に二六
〇字だったが、今日では三二〇字と二三%も増えた。ちなみに、ラジオ
の競馬中継では一分当たり八〇〇字で情報を伝えている。(P175)
── 織田 一朗《時計の針はなぜ右回りなのか 19941025-19951212 草思社》
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19941025
adlib様、字数まできっちり計算していただき、ありがとうございます!!
この学園、この後もeラーニングなのだろうか・・・。
みなさまの作品も期待しております!!
災害は既に出ているので、他に入学式を阻害する内容としては政治的な要因も考えられますね。
はてな高校の入学式では、国旗・国歌法案に反対する教師たちを含めて、教職員全員に対して事前に校長先生から通達が出されていた。教職員は、国家を全体で歌うの時に起立しなければ、国家反逆罪が適用されて教職員は退職させるという通達だった。
入学式は普通に始まった。
9:00
1. 開会のことば
司会の教師「それでは、これから高校の入学式を始めます」
学長、それでは挨拶をよろしくお願いします。
9:05
2. 学長の挨拶
皆さんの入学式に申し訳ないですが、私は既に校長ではありません。国から国歌反逆罪で訴えられて、校長を辞職、これから刑務所に向かわなければいけません。今日は、皆さんに最後の別れの挨拶だけを述べにきました。
(エー。。。学生たちは動揺する)
9:15
来賓として監視に来ていた国歌治安警察が校長に向かって
「貴様、それは国家機密だから言わんと言っただろうが。スピーチは中断だ!」
(校長のスピーチは中断、会場の体育館は騒然、校長は国家犯罪処刑所に連行される)
9:25
司会の教頭
「え、来賓の一部とし祝辞を述べるはずだった国歌治安警察さまが校長と一緒に退場されましたので、来賓紹介と祝辞はなくなりました」
3. 来賓紹介
4. 来賓の祝辞
9:35
5.国歌斉唱
教頭「国歌についてですが、先ほど亡くなった校長先生の遺言によって、絶対に歌わない、こんなダサくて昔臭い国歌を誰が歌うんだよ。もっとカッコいいフランスみたいな国歌にすればいいのになぁ。国歌は中止します」
9:45
5. 新入生代表の挨拶
新入生代表「国歌の時に起立しなければ、刑務所行きなんだと。みんな、俺たちも行こうぜ刑務所」
6. 祝電の披露
教頭「私も国歌治安刑務所に行かなければなりませんので、祝電はネットで見とけ」
9:55
7. 閉会のことば
教頭「別れの挨拶になりますが、今日の式は終わります。」
hiroponta様、力作ありがとうございます!!
1. 開会のことば
「本日は世界初のUstream,Twitter大学にご入学頂きありがとうございます。本イベントの公式ハッシュタグは#UstTwitterUnivです。このタグを見ていればその内、学長挨拶などのタグやUSTのURLも発表されると思いますので各自で追いかけてください。それではこれにて入学式を終了します」
garyo様、了解です・・・が、これはちょっとズルい!!
「17文字で表現せよ」と言われたときに ※1 ※2 ※3 (←※1~※3は別途参照) と書くようなもので、
きつい制約のなか、むりやり表現するから俳句は面白いのです。
司会「困ったなぁ。開会時間になっても主賓が到着しない。時間が限られていると言うのに……。
学長挨拶や来賓の祝辞は省略できないし、祝電をはしょるしかないか……。
なに?主賓が到着した?
もう、何で遅刻したんですか? え、宇宙で怪獣と戦っていた?
それはよんどころのない事情ですね。
早く席についてください。普段は3分間の所を1分でやりますよ」
司会「それでは、ウルトラ学校地球分校の入学式を始めます。
まず、校長のあいさつから。
ちなみにご存知の方も多いとは思いますが、校長の息子さんは、かの有名な初代ウルトラマンであります」
校長「シュワッ」
司会「ありがとうございました。
続いてご来賓のなかから、主賓であるウルトラの父、宇宙警備隊大隊長兼最高司令官よりご祝辞をいただきます」
ウルトラの父「(黙ってうなずく)」
司会「ありがとうございました。
続きまして新入生代表の挨拶。ウルトラマンボーイくん」
ウルトラマンボーイ「(ピコーン、ピコーン、ピコーン)」
司会「カラータイマーが点滅してしまったので、あと30秒しかありません。先を急ぎます。
例年ですと多数の祝電をご披露する所ですが、今年は一通だけとさせていただきます。
えー、『ケントウヲイノル』ウルトラセブンさんからの祝電でした」
(ピコーン、ピコーン、ピコーン)
司会「これをもちまして、入学式を終了します。
お忙しい中、ご出席ありがとうございました」
一同「シュワッチ」
meefla様、ありがとうございます。
何の入学式かを自由に決められる、という利点をぞんぶんに生かした回答でした。
ゆとり教育を過ごしてきた学生の学力不足を補うべく、特殊な能力を身につけることによって、幅広い知識と高い能力を備えた人材を養成することを目的として、今年、新設された総理大臣直轄の国立大学の入学式---
倍率50倍という超難関をくぐり抜けた第1期生とあって、新入生100名は緊張の面持ちで式の開会を待って着席している。
ステージ上に誰かがやってきた・・・そろそろ開会宣言のようだ。
すると、もう一人現れ、ステージの反対側へ向かって歩いて行く。
と、思ったら、また1人、また1人とステージ上に出てきた。
真ん中に立っているのはどうやら学長のようだ。非常に強面だ。
学長の右側に立っているのは総理大臣だ。恐らく来賓として出席しているのだろう。
学長の左側に立っている青白い顔の青年は、新入生代表のようだ。
その3人の両側に2人ずつ大学の事務局の職員らしき人たちが立っている。
「起立!」と一番右端の職員が叫んだ。
新入生一同、一斉に立ち上がると同時に、ステージに設置されている電光掲示板に「60」という数字が表示された。
「チーーーーン」とベルが鳴ると、ステージ上の7人が手にマイクを持ち、同時に別々の内容のことを話し始め、電光掲示板の数字が、59、58、57・・・と動き始めた。
ここは、国立 聖徳太子養成大学。
一度に何人もの人が話している内容を聞き分ける能力を磨くことによって、より幅広い知識を吸収するとともに、自分の考えを簡潔に1分間にまとめて発表できる高い能力を備えた優秀な人材を輩出することを目的としている。
7人の話が終わると同時に「チーーーーン」とベルが鳴り、電光掲示板の数字が「00」になった。
tnygutch2010様、ありがとうございます。やってくれましたね!!
みなさまもこのように、奇想天外な発想でお願いいたします。お待ちしています!!
・・・とある有名私立高等学校の入学式。
校長の挨拶
生徒の皆さんおはようございます。
本校のモットーは「無駄を省く」です。
よって、式次第は私の挨拶で終了します。
これより順番に教室に移動して授業を開始します。
会場入り口で手渡された番号札の教室が次の異動先です。
教室ではクラス分けのための試験を受けていただきます。
ご来賓の皆さま、遠方よりのご来場を感謝いたします。
それではこれで式を終了します。
ご静聴ありがとうございました。
校長退場。
次に生徒主任登場。
生徒の皆さん、先ず一番台の番号札を持っている人は起立願います。
皆さんの札には「1-数字」と書かれているはずです。
数字が席順です。
廊下に出て一番始めの教室に「1」と札が貼られています。
そこが皆さんの試験会場です。
直ちに移動してください。
残りの人はしばらくお待ち下さい。
生徒以外の方々も暫くそのままでお待ち下さい。
生徒主任退場。
校長の退場から間髪入れぬタイミングだった。
呆然とした来賓や父兄を尻目に生徒達の移動が始まった。
彼等にはこれから三年間の厳しい受験戦争が待っているのだった。
miharaseihyou様、ありがとうございます。こんな高校では、試験も一瞬で終わりそうですね!!
西暦2110年。
相次ぐ戦争と環境汚染により、もはや人類が住み続けるには過酷な地となりつつある地球を脱出した宇宙船HATENA号。その船内では、ある儀式めいた手続きが始められようとしていた。
今回の脱出に際して日本国内より選ばれた12歳以下の子供たち約100人は、船の中心部を占める広い部屋にズラリと並べられたカプセルに横たわっている。
光速に近い速度とは言え、約10年の年月をかけて新たな地へと旅立つのだ。
その間は睡眠学習によって、昔ならば中高の6年で習うべき学業とそれぞれの適性で振り分けられた技術知識を詰め込み、到着後は即座に植民のために働かなくてはならない。
少人数の船内スタッフである大人は子供たちと物資を送り届けた後、地球にとんぼ返りして次の便の準備にとりかかる計画となっているのだ。
親しき身内との別離を経験し、様々な人間から今後のことは散々言い聞かされ、感情が麻痺してしまったかのような子供たちは特に騒ぐこともなく大人しくカプセルに横たわっている。
やがてカプセルのスピーカーからオペレーターらしき女性の声が流れた。
「それでは、みなさん。これから長期の人口催眠および睡眠学習期間の導入となります。そのままリラックスしてください。」
代わって、やや年配の男性の声が流れる。
「船長です。みなさんの辿りつく予定の惑星Zには船内スタッフが責任をもって航行するのでご心配なく」
日本国内からのメッセージが入ったが、地球からだいぶ離れているせいか通信状態が悪い。
「首相のはて山です。遠く離れた星に行っ・・・ガガガ・・・みなさんは日本の・・・ガガガ・・・未来をし・・・ガー・・・」
ノイズが酷いためにオペレーターが途中で通信を切ったようだ。
続いて医療スタッフが声をかける。
「何か異常があった時は頭の付近にある赤いボタンを押してください。良き睡眠と学習を」
オペレーター「それではみなさん、最後の確認です。心の準備はよろしいでしょうか?」
カプセルの頭部に当たるランプが一斉に緑色に光る。
手元のディスプレイにてカプセルの表示がオールグリーンになったのを確認したオペレータは、人口催眠のスイッチを押した・・・。
かなり変則的ですが、これも新たな学業に入るための儀式とととらえていただければ幸いです。
goldwell様、ありがとうございます。すごい設定ですね。はてなの底力を感じます。
◆入学式前日 〜タイムズ先生〜
俺がその電話を受けたのは偶然だ。
「はい、テンプス高等学校、タイムズです」
「もしもし、明日から入学する、ええと新入生の久慈です」
俺は記憶をたぐった。ええと。久慈は東洋の小国から単身長期留学している少年だ。彼が寮に入るときに世話してやったのだった。
「久慈か。どうした? 入学式のことか?」
「そうです、あの、実家の母が、卒業式は明日なんですけど、明後日に手術になったようなんです。成功しないはずはないんですけど、ただ、100%とはいえないような難しい手術で、それで、僕、すみません、不安もありますし…」
要領を得ない。
「入学式を休んで、見舞いに行きたい、ってところか?」
「そうなんです」
彼が入寮したときのことを俺は思い出した。彼は、母からです、と言って小さな包みを持ってきた。中にはなにか見たことのない果物と短い手紙が入っていた。…久慈のお母さまは体調が思わしくなかったのか。
分かった気をつけて、とだけ俺は言えばよかった。なのについ口が滑ってしまったのだ。
「明日の入学式には出席してもらう。君には入学式を終えてから、学校を発ってもらいたい」
「でも、母は今、僕の祖国の…」
「大丈夫だ。間に合うから入学式の準備をして、明日は時刻通り、8時30分に登校してほしい。…念のため、腕時計を忘れないように」
俺はそう言って電話を切った。どれだけ無謀なことか、分かっていたのに請け負ってしまった。
というのも、おそらく彼は朝9時1分発の列車に乗らないと間に合わないはずなのだ。幸い学校は駅前も駅前にあるから、9時1分に校門を出てもその電車に乗れる。が。
入学式は9時からなのだ。入学式のための祝電は、毎朝その列車に乗った配達員が届けるはずだ。列車は9時に駅に着き、1分間停車して配達員が配達を終え、きっかり9時1分に駅を発車する。
つまり、9時に入学式を始め、9時1分に終える。それしか手はない。
「でも、どうするんだ。校長なんかともかく、来賓のあいさつなんかは放っておくと何十分にもなるぞ」
「その通りだ。時間を区切るしかないだろう。10秒とか、そういう単位になるが仕方ない」
同僚はみな知恵を絞ってくれたが、名案などそう簡単には浮かばない。
「そもそも1分じゃ、入場すらままならない。その1分ボーイが最後に入場して、最初に退場するぐらいじゃないと」
「それにどうやって時間を区切っていったらいいんだ。秒針のある大きな時計などここにはないぞ」
「音楽を奏でては」
「音に対して音で区切ってはかき消されてしまう。目に見える方法でないと」
「だが時計はない。秒が分かるのは…腕時計や懐中時計ぐらいだ」
「ホールの床一面に広がるぐらいの、大きな時計があればなあ」
大きな時計。俺にアイデアが舞い降りた。
「それだ。ホールの床に大きな円を描くんだ。それを時計にすればいい」
「円を描くだけでは時計にならないだろう」
いや、秒針は人間で代用できる。この方法なら、彼は9時1分の電車に乗れる。
「円を描いて、15度ずつ印をつけてくれ。その円に沿って校長の席、来賓の席、祝電を読み上げる司会の席なんかを設けるんだ。新入生の席は円の内側にまとめておけばいい。配置を組み替えてくれ。ステージは正面じゃないぞ」
同僚はみな疑問を抱えたままだ。それでも夜が更けるまで会場設営に付き合ってくれた。
◆入学式当日 〜久慈くん〜
よく分かんないけれど、入学式を終えてから、今晩の母の面会時間までに、故郷に戻れるとは思えないのだ。だってこの街に来るときにだってほとんど1日かかったもの。でも先生は確かに、「間に合うから入学式の準備をして、明日は時刻通りに学校に来るように」っておっしゃった。間に受けてしまったけれど、本当に大丈夫なんだろうか。
僕は慣れない制服を来て、慣れない教室へ入り、慣れない座席で考えていた。教室に座っているクラスメイトは、だれもが自分よりも年上に見えたし、勉強ができるように見えたし、それでいて互いに親しげにおしゃべりをしたりもしていた。みんなはもともと知り合いなのだろうか。大陸中から生徒は集まっていると聞いたけど。
8時30分きっかりに、教室にタイムズ先生がやってきた。入寮のときの先生だ。教室はたちまち静かになった。先生は言った。
「今日の入学式だが、1分間で行うことになった。9時に開始、9時1分に終了だ。てきぱきと行動するように。それから新入生代表のあいさつは、このクラスの久慈くんが行うことになった。久慈くんはあとで来てくれ」
久慈って…僕ですか。ですよね。こんな名前の人、周りにはいないみたいだし。
僕は先生に呼び出されて、校門のところへやってきた。そこに立って、と言われるがまま、入学式の看板の前で僕は写真を撮られた。その場で写真が出てくるカメラなんて初めて見た。
先生は言った。
「なにぽかんとしているんだ。その写真はしまっておけ。さて、時間もないし説明しよう。久慈くん、ホールには君は最後に入場してくれ。君が入場したら式は始まる。9時きっかりだ。ホールの床には円状にラインが引いてあるから、君はその上をゆっくり歩けばいい。ラインには等間隔に目盛りが付いている。腕時計を持ってきただろう? ひと目盛り、5秒で歩く。目盛りはちょうど12あるから、ラインを1周するとぴったり1分だ。いいだろう?」
いいだろう、って先生…。なぜホールに円? なぜ1分? なぜ写真? 僕は気になっていたことを聞いた。
「先生、どうして1分なんですか。僕の母の見舞いと関係があるのですか。それから、」
「大アリだ。君はその駅に列車が来る時間を知っているか」
先生は僕の声をさえぎって尋ねた。
「時間、知りません」
「9時1分だ。その特急に乗れば、今日の夕方には君のお母さんのいる街に着くだろう。お母さんは君の入学を喜んでらしたのではないのか」
その通りだ。受験勉強の間も、一人暮らしが決まったときも、僕のことあれこれ世話を焼いてくれた。合格の通知が届いたときも、僕以上に喜んでくれたのは母のほうだ。
そのとき、遠くから列車がやってくる音が聞こえてきた。
「9時になる。入場してくれ」
先生は告げた。ホールの上の鐘が鳴った。僕の目の前で、ホールの扉が開かれた。
「久慈はじめくんの入場です」
司会と思しき人物が高らかに言った。僕が一歩を踏み出したのと同時に、校長先生がしゃべりだした。2目盛り先には来賓が並んでいるのが見えた。そのさらに2目盛り先にもだれかがいた。そうか、なるほど。僕はこの時になってようやく、ホールの中の円の意味に気がついたのだった。
sokyo様、ありがとうございます!!
「たった1分のために、壮大な計画を立てる」というのがこの小説募集の要点だったのですが、それをみごと満たしてくれました。
大満足です!!
sokyo様、ありがとうございます!!
「たった1分のために、壮大な計画を立てる」というのがこの小説募集の要点だったのですが、それをみごと満たしてくれました。
大満足です!!