具体的に何年何月のどういう裁判だったのか,裁判を特定できる情報が欲しいです。ウェブ上にソースがなければ書籍などを指定して教えてください。
具体的な判決が見つからなくて申し訳ないのですが、文字通り「何があっても借金は払え!」という判決の存在は想定しにくい理由と、あるとすればどのような判決がありそうか、と言う点について若干参考になりそうな情報を提供いたします。
関東大震災(大正12年9月1日)の際には、実は「支払延期令」(大正12年9月7日勅令第404号)というものが出され、その第1条で「大正十二年九月一日以前ニ発生シ同日ヨリ同年同月三十日迄ノ間ニ於テ支払ヲ為スヘキ私法上ノ金銭債務ニシテ、債務者カ東京府、神奈川縣、静岡縣、埼玉縣、千葉縣及震災ノ影響ニ因リ経済上ノ不安ヲ生スル虞アル勅令ヲ以テ指定スル地区ニ住所又ハ営業所ヲ有スルモノニ付テハ三十日間其ノ支払ヲ延期ス」とされておりました。したがって、「いかなることがあろうとも,借金は返さねばならない」というのが、<9月1日に大震災が発生したにも関わらず、9月1日に期限が到来する金銭債権は9月1日に支払いがなされなければ、履行遅滞となる>という意味であれば、そのような判決が存在する可能性は極めて低いと思われます。
ただし(現行の条文で言うと)民法419条3項で、金銭債務の不履行については、天災等の不可抗力すら抗弁とすることができないということが、判例を待つまでもなく、明文上規定されております。「支払延期令」で規定されている30日間の猶予期限ではまだかなりの痛手を負っている企業が存在したと想定されますが、この期限があければその時点を起算点として履行遅滞になり、企業側は震災を抗弁とすることができないという判断がなされることは十分考えられるので、そういう判決があったのかもしれません。
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M29/M29HO089.html
http://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC419%E6%9...
というわけで、具体的な判決をお示しできなくて申し訳ないのですが、「何があっても借金は払え!」ということの主旨につきましては、「世の中大変困った事態になれば、それなりの対処がなされるものである」という感じではないかと思います。
戦争等の場合につきましても、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(いわゆる国民保護法)の130条に以下のような規定があり、関東大震災の際のような措置がとれるようになっているようです。
第百三十条 内閣は、著しく大規模な武力攻撃災害が発生し、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hogohousei/hourei/hogo.html
なお、現在債権法は全面改正のための検討が行われているのですが、改正検討委員会での議論では、下記の通り上述の民法第419条3項の規定は削除が提案されているようです。
2.金銭債務と不可抗力の場合の免責――現民法 419 条 3 項の削除
現行 419 条 3 項は、不可抗力をもってしても免責できないとすることにより、金銭債務
の不履行の場合における絶対無過失責任を採用している。これは「金銭に不能なし」との
ヨーロッパ大陸法の伝統を汲むものと理解されている。
しかし、近時のヨーロッパ各国の立法例で、金銭債務につき絶対無過失責任を採用した
国はない。わが国でも、阪神淡路大震災の際に、不可抗力の場合に金銭債務の債務者に免
責の余地を認めないとする立法方式の不都合が露呈し、その結果として、責任発生を回避
するための数々の措置がとられたことは、記憶に新しい。金銭債務の場合にのみ、免責事
由を特別に強化することを正当化する理由も弱い。さらに、金銭債務の不履行において利
息超過損害の賠償を認めるときには、(賠償範囲の確定ルールでの限定は可能であるが、そ
の前に責任成立レベルでも)他の債務の不履行の場合と平仄をあわせておくことが望まし
い。
それゆえ、今回の改正提案では、現民法 419 条 3 項の規律は採用せず、責任設定レベル
では、金銭債務の不履行の場合を債務不履行の一般準則(【Ⅰ-7-1-1】(1)・【Ⅰ-1
1-1】)に従わせることとした。
♣〔適用事例-3〕 20xx 年 6 月 30 日に、AはBから工作機械(甲)を 100 万円で購入
し、引渡しを受けた。代金は、1 か月後の同年 7 月 30 日に、AがBの事務所に持参して支
払うものとされていた。同年 7 月 30 日、Aが代金を支払うためにBの事務所を訪れよう
としたところ、当地を大地震がおそい、Bの事務所に向かうどの道路も通行ができない状
況になり、また金融機関等の振込・決済システムもすべてがダウンした。この場合、Aは、
代金支払のための通常の手段が復旧するまで、Bに対して遅延損害金を支払う必要がない。
http://www.shojihomu.or.jp/saikenhou/shingiroku/shiryou1501.pdf
いろいろ調べて頂きありがとうございます。
確かに法律で不可抗力が損害賠償を免れる理由にならないと規定されているのなら,当然判決を待つまでもなく「いかなることがあろうとも」ですね。何もないところから「大審院の判例」みたいな話が出てくるとも思えないので,やはりこの条文が関連する裁判があったのでしょうか。